安い牛肉が見違える焼き方。焼く前の「30分」と「筋切り」がコツ

肉の調理・焼き方

お肉売場からこんにちは。精肉部門の中の人です。

「特売で買った牛肉、焼いたら硬くてパサパサで…。やっぱり安いお肉だからですか?」——売場に立っていると、こんな声を本当によく聞きます。

でも実は、安い牛肉が硬くなる一番の原因は、値段ではありません。「焼く前のひと手間」と「焼き方」です。その証拠に、精肉のプロは特売の輸入牛を自宅でおいしく焼いて食べています。

この記事の答えを先に言います。焼く30分前に冷蔵庫から出す・筋切りをする・強めの中火で片面をいじらず焼いて最後に休ませる。この3つで、同じ特売のお肉が見違えます。

フライパンで焼き目がついた牛ステーキから湯気が立っている
写真:John Feng / Unsplash

なぜ安い牛肉は硬く・パサつくのか

理由はシンプルで、特売の安い牛肉は「赤身が多い部位」が中心だからです。

霜降りのお肉は脂(サシ)が筋繊維の間に入りこんでいて、焼いてもやわらかさが残ります。一方、赤身は筋繊維がしっかりしたお肉です。火を通すと繊維がぎゅっと縮み、そのぶん硬く感じやすくなります。

さらに、家庭でやりがちな失敗が2つあります。

1つ目は、冷蔵庫から出してすぐ、冷たいまま焼くこと。中まで火が通る前に表面だけが焼けすぎてしまい、焼きムラで硬くなります。2つ目は、焼きすぎです。焼きすぎると肉汁(お肉の中の水分)が抜けてパサつきます。脂の少ない赤身ほど、水分が抜けたときの硬さをダイレクトに感じてしまうのです。

裏を返せば、赤身のお肉そのものが悪いわけではありません。赤身はうまみが濃く、脂っこくないので食べ疲れしない、いいお肉です。縮ませない・水分を逃がさない。この2点さえ押さえれば、ちゃんとおいしく焼けます。

売場で「安い牛肉って硬いんです」と相談をいただいたとき、私の答えはいつも同じで、「温度に気をつけてください」です。焼く前のお肉の温度と、焼いているときの温度。さきほどの失敗2つは、どちらも温度でつまずいているんですね。ちなみに特売でステーキ用を選ぶなら、肩ロースがおすすめです。温度にさえ気を配れば、比較的やわらかく焼けるいい部位です。パックの選び方そのもののコツは1本目の記事にまとめています。

同じお肉が見違える、焼き方のコツ3つ

コツは3つだけです。ここからは、台所に立っているつもりで読んでください。

コツ①:焼く30分前に、冷蔵庫から出す

まず、焼き始める30分前にお肉を冷蔵庫から出して、お皿にのせて置いておきます。やることはこれだけ。お肉の中心の冷たさが抜けて、中まで均一に火が入るようになります。表面だけ焼けすぎて硬くなる失敗が、この時点でぐっと減ります。

真夏はキッチンが暑いので、時間は短めにしてください。「出しっぱなしで忘れた」が一番よくないので、タイマーをかけておくと安心です。

コツ②:焼く前のひと手間「筋切り」と、塩のふり方

お肉をまな板に置いて、赤身と脂の境目を見てください。白い筋が通っている場所があります。そこに包丁の先で、数か所ブスッと切り込みを入れます。これが「筋切り」です。深さはお肉の厚みの半分くらいまでで大丈夫。この筋は焼くと強く縮む部分なので、先に切っておくと、お肉が反り返らず、縮んで硬くなるのを防げます。

まな板の上の生の牛肉。赤身と脂の境目に白い筋が見える
写真:Sergey Kotenev / Unsplash

塩は、焼く5〜10分前にふります。量はお肉の重さの1%ほどの少量。私が特売の牛肉を焼くときに、実際にやっているひと手間です。塩をふって少し置くと、お肉の余計な水分が表面に浮いてきます。これをキッチンペーパーでしっかり拭き取ってください。「塩で水分が出たら、肉汁が逃げるんじゃ…」と心配になりますよね。浮いた水分さえ拭き取れば大丈夫。むしろ表面が乾いて、焼き色がきれいにつきやすくなります。こしょうは焦げやすいので、フライパンに入れる直前にふってください。

厚切りに自信がないときは、無理をしなくて大丈夫です。繊維を断ち切る向きに包丁を入れて薄めに切るだけでも、口に入れたときの硬さはかなり変わります。

コツ③:強めの中火で「いじらず焼いて、最後に休ませる」

では焼きます。フライパンを先にしっかり温めて、油をひいたら、お肉を入れます。ここからが我慢のしどころ。強めの中火のまま、片面が焼き固まるまで触りません。菜箸でつついたり、位置を動かしたりしたくなりますが、置いたら手を離してください。

焼き色がついたら、返すのは1回。裏面は短時間でさっと焼きます。何度もひっくり返さない、ヘラで上から押さえつけない。押すとせっかくの肉汁が流れ出てしまいます。

焼けたらすぐ切りたくなりますが、もうひと呼吸。お皿に移してアルミホイルをふわっとかぶせ、数分休ませます。焼きたてのお肉は肉汁が中心に集まって暴れている状態で、すぐ切ると流れ出てしまいます。数分置くと肉汁が全体に落ち着いて、切ったときにお皿が汁だらけにならず、食べたときのジューシーさが変わります。

匂いが気になるとき・厚切りを焼くときは

輸入牛の匂いが気になる方は、焼く前のひと工夫で和らげられます。すりおろした玉ねぎや赤ワインをからめて少し置いてから焼く。あるいは、焼くときにニンニクやローズマリーをフライパンに一緒に入れる。香りの力を借りるだけで、食べたときの印象がずいぶん変わります。匂いは好みの個人差も大きいので、「気になったら試す」くらいの気持ちで大丈夫です。

ローズマリーとバターをのせてフライパンで焼いている牛ステーキ
写真:Sandra Seitamaa / Unsplash

もうひとつ、厚切りのお肉だけは注意点があります。厚切りは中の焼き加減が外から見えないため、切ってみたら生だった、火を入れ直したら今度は焼きすぎた、になりがちです。確実にきめたいなら中心の温度を測るのが一番なのですが、その道具の話は今後の記事で詳しく書く予定です。まずは「厚切りは焼きすぎやすい」とだけ覚えておいてください。

まとめ:特売のお肉こそ、焼き方で差がつく

今日のポイントは3つです。

  • 焼く30分前に冷蔵庫から出して、中まで火が入りやすくする
  • 白い筋に切り込みを入れ、塩は焼く5〜10分前にふって浮いた水分を拭き、こしょうは焼く直前にふる
  • 強めの中火で片面をいじらず焼き、返したら短時間、最後にホイルで数分休ませる

どれも特別な道具はいらず、今日の晩ごはんから試せることばかりです。特売のお肉がおいしく焼けるようになると、「安いから仕方ない」が「安いのにおいしい」に変わって、食卓がちょっと豊かになります。

次にお店で特売の牛肉を見かけたら、ぜひ1パック手に取ってみてください。30分前に冷蔵庫から出す——まずはそこからで十分です。

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