お肉売場からこんにちは。精肉部門の中の人です。
「カレー用に、安かったもも肉を買って煮込んだら、固くてパサパサ。豚や鶏はなんとなく選べるのに、牛肉だけ急に難しい…」
そんな経験、ありませんか?
じつはあの失敗、お肉が悪かったわけでも、腕のせいでもありません。牛肉の値段の差は「おいしさの順位」ではなく「向いている料理の違い」だからです。安いお肉には安いなりの、いちばんおいしくなる料理がちゃんとあります。
毎日スーパーの牛肉売場でお肉を並べていますが、肩ロース・もも・バラ・すねの棚の前は、お客様の足がいちばん長く止まる場所です。「カレーにはどれがいいの?」は、質問の定番中の定番でもあります。
先に結論だけ言うと、「すき焼きなら肩ロース、ローストビーフならもも、牛丼や炒め物ならバラ、カレーとシチューならすね」。部位から考えるのをやめて、今夜の料理から逆に引く。これだけで牛肉売場は迷わなくなります。

牛肉だけ難しいのはなぜ?値段の差は「向いている料理の差」
牛肉が難しく感じるいちばんの理由は、同じ牛なのに、部位で100gの値段が何倍も違うことです。豚や鶏ではここまで開きません。だから「高い=おいしい、安い=それなり」と順位で考えたくなるのですが、これが冒頭のカレーの失敗のもとです。
値段の差の正体は、その部位が「よく動く場所か、あまり動かない場所か」の差です。あまり動かない場所のお肉はやわらかく、焼くだけですぐおいしい。だから値段が高くなります。逆に、脚や肩のようによく動く場所のお肉は、すじや繊維がしっかりしていて、焼くだけだと固い。そのぶん値段は安くなりますが、時間をかけて煮込むと、高いお肉には出せないうまみが出ます。
つまり値段は「手間をかけずにやわらかさを楽しめるかどうか」の差であって、うまみの差ではありません。安い部位は、合う料理に使えば堂々と主役になります。
このあたりの考え方は豚肉や鶏肉と共通です。豚肉のロース・バラ・肩ロースの使い分けと鶏もも・むね・ささみの使い分けもあわせて読むと、お肉売場の全部の棚が地図になりますよ。
今夜の料理から逆引き。牛肉の部位早見表
ここからが本番です。売場に着いたら、先に今夜の料理を1つ決めてください。それから下の表で部位を引く。順番をこれに変えるだけで、棚の前で悩む時間がほとんど消えます。
| 今夜の料理 | 選ぶ部位 | 値段感 |
|---|---|---|
| すき焼き・しゃぶしゃぶ | 肩ロースの薄切り | やや高め |
| 牛丼・肉じゃが | バラか肩ロースの切り落とし | 手ごろ |
| 野菜炒め・焼肉 | バラの薄切り | 手ごろ |
| ローストビーフ・たたき | もものかたまり | 中くらい |
| ステーキ | 肩ロース(またはもも) | やや高め |
| カレー・ビーフシチュー | すねのかたまり | いちばん手ごろ |
値段感は「同じお店の牛肉コーナーの中で比べたら」の目安です。日やお店で入れ替わるので、あとは100gあたりの単価(グラム単価)を見比べてください。
表で気づいてほしいことが2つあります。
1つ目は、カレーの欄に「もも」がいないことです。もも肉は脂が少ない赤身なので、長時間煮込むとうまみと水分が抜けて、パサパサになりやすいのです。冒頭の失敗はこれでした。もも肉が悪いわけではありません。ローストビーフのように「中まで火を通しすぎない料理」なら、あっさりした上品なおいしさで主役を張れます。
2つ目は、いちばん安いすねが、カレーとシチューでは一軍だということです。理由は次の章でお話しします。
急いでカレーを作りたい日は、すねの代わりに肩ロースの切り落としでも大丈夫です。煮込み30分ほどでやわらかくなるので、平日向きの選択になります。
実際、売場でもお客様に「カレーにはどれがいいですか?」と聞かれることがよくあります。すね肉があれば迷わずおすすめしますし、もし売場にすね肉がないときは、すじ肉でのカレーをご提案します。しっかり煮込んで作るカレーは、本当においしいですよね。

売場のパックで見分ける4部位。ラベルより「見た目」で覚える
逆引き表が頭に入ったら、次はパックの見た目と部位をつなげましょう。棚の前に立ったつもりで聞いてください。見るのは白い脂の入り方と、赤身のきめの2つだけです。
肩ロースは「赤身に網目の脂」です。 赤身の中に白い脂が細かく散らばっていて、4部位の中ではいちばん華やかな見た目をしています。この網目の脂がとけて、やわらかさとコクになる。だからすき焼きやしゃぶしゃぶ、ステーキのような「お肉そのものを味わう料理」の一軍です。値段はやや高めですが、ごちそうの日はここに投資する価値があります。
ももは「ほぼ一面の赤身」です。 白い部分が少なく、パック全体が赤い。あっさりした赤身の味で、かたまりならローストビーフやたたきに向きます。焼きすぎると固くなりやすいのが唯一の弱点ですが、これは焼き方でカバーできます。詳しくは安い牛肉が見違える焼き方で書いたとおり、焼く前に常温に戻して、焼いたあとに休ませるだけで別物になりますよ。
バラは「白と赤のしましま」です。 脂の層と赤身の層が交互に重なっていて、豚バラと同じ見た目なので覚えやすいはずです。とけた脂のうまみがつゆやごはんに回るので、牛丼・肉じゃが・炒め物のような「味を全体にまとわせる料理」で本領を出します。脂が多い部位ですが、うまみのもとなので心配はいりません。量を少し控えめにしても満足感が出る、家計の味方でもあります。
そして、すね。「すじが多くて、いちばん安い」逆転枠です。 見た目は正直、地味です。赤身に白いすじが入り組んでいて、焼くだけならこの4つでいちばん固い。だから安い。ところが、このすじの正体はコラーゲンで、1時間、2時間と煮込むと、とろとろのゼラチンに変わります。カレーやビーフシチューの専門店がすねを使うのは、これが理由です。時間だけかければ、いちばん安いお肉が、いちばん贅沢な煮込みになる。牛肉売場でいちばん気持ちのいい逆転だと私は思っています。
ちなみに私の食卓で、4部位のうちいちばん出番が多いのは「もも」です。いちばん買い求めやすく、焼き方さえ工夫すれば十分おいしく食べられるからです。ひとくちに「もも」といっても、内もも・ランプ・外ももなど、部位によって肉質は異なります。ただ、カレーを作るときだけは、我が家も「すね」を使うことが多いです。しっかり煮込んでやわらかさを出すと、カレーの満足度はとても高くなりますよ。

まとめ
今日のポイントをおさらいします。
- 牛肉の値段の差は「おいしさの順位」ではなく「向いている料理の違い」。安い部位も合う料理なら主役になる
- 売場では部位からではなく「今夜の料理」から逆引きする。すき焼きは肩ロース、ローストビーフはもも、牛丼と炒め物はバラ、カレーとシチューはすね
- パックは見た目で覚える。網目の脂なら肩ロース、一面の赤身ならもも、しましまならバラ、すじが多ければすね
これで豚・鶏・牛の基礎3部作が出そろいました。値段の高い安いにふりまわされず、料理から部位を選べるようになると、牛肉コーナーは「高くて怖い棚」から「今日はどれで何を作ろうか」と選べる棚に変わります。
まずは次の買い物で、いちばん安いすね肉を1パック、カレー用に買ってみてください。週末にことこと煮込んだら、「安いお肉=それなり」のイメージが気持ちよくひっくり返りますよ。
部位の地図が頭に入ったら、次はいちばん出番の多い切り落としです。牛肉の切り落としで見る場所は3か所だけなので、この地図とセットで覚えると牛肉コーナーはもう迷いません。


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