お肉売り場からこんにちは。精肉部門の中の人です。
もうすぐ敬老の日ですね(2026年は9月21日です)。おじいちゃんおばあちゃんに何かおいしいものを、と考える季節ですが、今日の話は敬老の日に限らず、一年中使える話です。
「親にお肉を出したら、硬いと言って残された」「ネットで調べたら、ヒレがいいと書いてあったり、脂の多いほうがいいと書いてあったり、言うことがバラバラ」
そんな経験、ありませんか?
じつは、年配の方が食べやすいお肉は、高級和牛を買わなくても、いつものスーパーで選べます。売り場でも「柔らかいのどれ?」「おじいちゃんおばあちゃんでも食べられるのどれ?」と聞かれることはよくあって、そのときに私が見ているのも、値段ではありません。
先に結論だけ言うと、パックで見るのは「部位・厚み・繊維の向き」の3か所だけです。この3つさえ押さえれば、普段の予算のまま「これなら食べやすい」というパックを自分で選べるようになります。
柔らかいお肉は「部位」だけでは決まらない
売り場に立っていて、ひとつ面白いなと思っていることがあります。
黒毛和牛の棚で言うと、年配のお客様がご自身で選ばれるときは、少しサシの入ったステーキを手に取られることが多いんです。ところが、ご家族が「親に食べさせたいから」と選ばれるときは反対で、「脂っこいと重たいだろうから」という理由で赤身の焼肉用を選ばれる傾向があります。
お気持ちはよく分かります。ただ、赤身で厚みのある焼肉用は、じつは噛む力がいちばん必要になる組み合わせなんです。よかれと思って選んだほうが食べにくかった、ということが起こります。
このすれ違いと、ネットの情報がバラバラな理由は、根っこが同じです。「ヒレがいい」も「脂の多いほうがいい」も、じつはどちらも半分正解だからです。
ヒレは筋が少なくて柔らかい部位です。ただ、脂が少ないぶん、火を通しすぎるとパサついて、かえって食べにくくなります。逆に脂の多いお肉はしっとりしますが、脂身のかたまりは噛み切りにくい。「どの部位か」だけで決めようとするから、答えが割れるんです。
売り場に毎日立っている側から言うと、同じ部位でも、切り方ひとつで別物になります。だから部位に加えて、あと2つ見てほしい場所があります。
1つ目は厚みです。 同じロースでも、とんかつ用の厚切りと、しゃぶしゃぶ用の薄切りでは、噛む力がまったく違います。年配の方に出すなら、迷ったら薄いほうを選んでください。厚みの違いがどれだけ食感を変えるかは、すき焼き用としゃぶしゃぶ用の違いの記事で詳しく書いています。
2つ目は繊維の向きです。 お肉は細い繊維の束でできていて、この繊維を断ち切るように切ってあると、噛んだときにほろっとほどけます。逆に繊維に沿って切ってあると、筋っぽく感じて噛み切りにくい。
とはいえ、売り場でこんな難しい言い方はしません。お客様にお伝えするときは、ひとことです。
「筋が横に走ってるやつを選んでください」
パックの表面をよく見ると、お肉に細い筋のような線が見えます。その線が、手前から奥へ長く伸びているのではなく、横向きに走って短く途切れて見えるもの。それが繊維を断ち切ってあるお肉です。慣れると、パックを持ち上げなくても上から見ただけで分かるようになりますよ。

スーパーで買える範囲での正解。牛・豚・鶏それぞれ
では具体的に、いつものスーパーの棚で何を選べばいいか。売り場に着いたら、まず焼肉用やステーキ用の並ぶあたりは素通りして、薄切りのコーナーへ向かってください。すき焼き用・しゃぶしゃぶ用・切り落としと書かれたパックが並んでいる場所です。年配の方向けの選び方は、ほぼこの棚の中で完結します。
そのうえで、ヒレやサーロインのような高い部位に頼らない前提で、牛・豚・鶏の順にいきます。
牛肉なら、肩ロースかももの薄切りです。 棚の前に立ったら、すき焼き用・しゃぶしゃぶ用と書かれた薄切りコーナーを見てください。肩ロースは赤身に細かく脂が混ざっているので、薄切りならしっとりしたまま柔らかく食べられます。ももは脂が少ないぶん、しゃぶしゃぶ用の一番薄いスライスを選ぶのがコツです。切り落としでも大丈夫ですよ。部位ごとの性格は牛肉の部位の使い分けにまとめています。
基本は普段の予算で十分です。そのうえで、少し奮発できる日なら、私が売り場でいちばんおすすめしているのは、赤身の黒毛和牛のしゃぶしゃぶ用を、お鍋ではなくフライパンや鉄板でさっと焼く「焼きしゃぶ」です。薄いので噛む力が要らないのに、焼いた香ばしさが出るので、ごちそう感がしっかり残ります。敬老の日のように「少しいいものを」という日にはぴったりですよ。もちろん和牛でなくても、しゃぶしゃぶ用の薄切りなら同じ食べ方ができます。
豚肉なら、ロースかももの、しゃぶしゃぶ用スライスです。 豚はもともと繊維がきめ細かいので、薄ささえ確保すれば食べやすくなります。生姜焼き用より、しゃぶしゃぶ用の薄さを選んでください。同じロースでも厚みの表示で用途が分かれているので、パックのラベルの「〜用」の文字を手がかりにするのが早いです。部位ごとの違いは豚肉のロース・バラ・肩ロースの違いにまとめています。
鶏肉なら、もも肉です。 むね肉やささみは「柔らかい」イメージがありますが、火を通すとパサつきやすく、飲み込みにくさにつながることがあります。もも肉は水分と脂のバランスがよくて、加熱してもしっとりしたまま。皮が噛み切りにくいときは、皮なしのパックを選ぶか、調理前に外してしまえば大丈夫です。もも・むね・ささみの使い分けは鶏もも・むね・ささみ、どれを買う?で詳しく書いています。
もうひとつ、どのお肉にも共通する選択肢として、ひき肉があります。すでに繊維が断ち切られているので、噛む力の心配がいちばん少ない形です。そぼろや肉豆腐にすれば、普段のおかずのまま出せます。
量で迷ったら、少なめのパックを2種類にする手もあります。年配の方は一度にたくさん食べないことが多いので、大きなパックを持て余すより、豚しゃぶ用と鶏ももを少しずつ、のような組み合わせのほうが食卓に変化も出ます。
硬くなりやすいパックの見分け方。スーパーの棚で避けたいもの
次は逆に、「食べにくくなりやすいパック」の見分け方です。先に言っておくと、これから挙げるお肉がダメという話ではありません。煮込みや若い人向けには最高の選択肢です。あくまで「年配の方にそのまま出す」場面では避けたほうがいい、という話です。
見分けるポイントは3つあります。
- 白い筋が太く走っているパック。すね肉やスジ肉に多く、長時間煮込めばとろとろになりますが、焼いただけでは噛み切れません。
- 「カレー・シチュー用」の角切りパック。厚みがあるうえに煮込み前提の部位なので、短時間の調理では硬いままです。
- 脂身が層になって厚く入っているパック。バラ肉に多い形です。薄切りなら大丈夫ですが、厚切りの脂身のかたまりは意外と噛み切りにくいんです。

ここまで選び方の話をしてきましたが、最後にひとつだけ調理の話を。せっかく薄切りを選んでも、火を通しすぎると硬くなります。しゃぶしゃぶ用の薄切りなら、色が変わったらすぐ引き上げるくらいで十分です。安いお肉をおいしくする焼き方は安い牛肉が見違える焼き方で詳しく書いているので、買った後の話はそちらに任せます。
なお、この記事でお話ししているのは「噛みやすさ」までです。むせやすくなった、飲み込みづらそう、といった様子が見られる場合は、お肉選びの工夫だけで対応せず、かかりつけのお医者さんや専門の窓口に相談してくださいね。
まとめ。次の買い物で見るのは3か所だけ
今日のポイントをおさらいします。
- 柔らかさは部位だけでは決まらない。「部位・厚み・繊維の向き」の3か所で選ぶ
- スーパーでの正解は、牛は肩ロースかももの薄切り、豚はしゃぶしゃぶ用スライス、鶏はもも肉。迷ったらひき肉
- 太い筋・煮込み用の角切り・厚い脂身の層は、そのまま出す用途では避ける
高いお肉を買わなくても、いつもの棚から「食べやすい一パック」は選べます。それが分かっていると、敬老の日のごちそうも、普段のおかずも、家族みんなで同じ食卓を囲みやすくなりますよ。
まずは次の買い物で、薄切りコーナーのパックをひとつ手に取って、表面の筋の向きを見てみてください。今まで気にしていなかった「線」が見えてきたら、もう選べるようになっています。
アイキャッチ写真: Nicholas Ng(Unsplash)


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