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「ローストビーフを焼いて切ってみたら、断面から赤い汁がじわっと出てきた。これって血? 生焼け? このまま家族に出して大丈夫?」
包丁を持ったまま、手が止まったことはありませんか?
じつはあの赤い汁は、血ではありません。お肉の赤い色のもとが、水分と一緒に溶け出したものです。
気になるのは、食べていいかどうかですよね。赤い汁が出たからといって危ないとは限りませんし、赤くても平気とも限りません。色だけでは決められないんです。確かめるのは「中心の温度」と「買ったお肉の表示」の2つ。表示のほうは、売り場で働く中の人だからお伝えできる話なので、後半で詳しく書きます。
赤い汁は血ではない。でも「色」では安全は決められません
お肉は加工の早い段階で血を抜く処理が済んでいるので、ローストビーフのブロックに血はほとんど残っていません。
赤い色の正体は、ミオグロビンという成分です。お肉の赤い色のもとになっていて、お肉の中の水分がにじみ出るときに一緒に溶け出してきます。血のように見えても、中身はこの色のついた水分なんです。
じつはこれ、生のお肉のパックの底にたまる赤い汁と同じ仕組みです。パックの赤い汁の話は、こちらで詳しく書いています。
→ お肉のドリップとは?パックの赤い汁は血じゃない。出たときの扱い方と選び方
ここで気をつけてほしいのは、「赤い汁が出る=生焼けで危ない」とも、「血じゃないから赤くても平気」とも、色からは判断できないことです。
埼玉県が食中毒予防のために出している資料では、60℃と75℃で焼いたお肉を比べると、焼き色も切った断面もほとんど差がなかったと紹介されています。見た目がそっくりでも、中の温度は15℃も違うことがある。断面の赤さや汁の色をいくら見つめても、答えは出ません。
同じ資料では、加熱が足りなかったローストビーフなどの牛肉料理で、腸管出血性大腸菌(O157など、少しの量でも重い食中毒を起こす菌)による食中毒が起きた例も取り上げられています。こわがらせたいわけではありません。色ではなく、別のものさしで確かめてほしいんです。
確かめるのは「中心の温度」。表面をあぶるだけでは足りません
その別のものさしが、お肉のいちばん真ん中の温度です。厚生労働省は、家庭でお肉を加熱するときの目安を「中心部を75℃で1分間以上」としています。
中心の温度を確実に知るには、中心温度計(お肉に刺して真ん中の温度を測る温度計)を使うのがいちばんです。ブロックのいちばん厚いところに、真ん中まで差し込んで測ります。端や浅いところは早く温まるので、刺す深さが足りないと、真ん中より高い温度が出てしまいます。温度計を持っていない方は、要るかどうかの線引きをこちらにまとめています。
→ 肉用温度計は買いか? 精肉のプロが考える「要る人・要らん人」の線引き
ローストビーフに使うなら、針をお肉に刺して真ん中の温度を測るタイプを選んでください。たとえば、タニタの TT-508N のような温度計です。
「でも、菌がつくのはお肉の表面だけでしょう? 外側をしっかり焼けば、中は赤くても平気なんじゃない?」
そう思った方もいるかもしれません。ネットでもよく見かける説明ですが、ここは注意が必要です。厚生労働省の資料では、生のお肉に菌をつけて1時間たったあと、表面から1cm内側の部分でも菌が見つかったと紹介されています。
菌は表面にとどまっているとは限らない、ということです。表面をさっとあぶっただけでは、中まで安全になったとは言えません。
家で作るローストビーフは、焼き加減を確かめられるのが作ったあなただけ。だからこそ、色ではなく温度で見てほしいんです。

売り場目線:表示で「中まで焼くお肉」を見分ける
ここからは、売り場で働く中の人だからお伝えできる話です。
牛肉のなかには、やわらかくしたり味をなじませたりするために、あらかじめ処理をしてあるお肉があります。たとえば次のようなものです。
- 小さなお肉をくっつけて形を整えた「成形肉」
- 味付けの液を針で中に注入したお肉
- 刃で筋を切って、やわらかくしたお肉
こうした処理をしたお肉は、表面についていた菌が、処理のときにお肉の内側まで入ってしまうおそれがあります。そのため厚生労働省は、中心部の色が変わるまで十分に加熱するよう求めています。
見分ける手がかりは、お店の表示です。東京都の食肉衛生検査所のQ&Aでは、処理をしたお肉の表示の例として「あらかじめ処理をしてありますので、中心部まで十分に加熱してお召し上がりください」といった文言が紹介されています。
ただ、この表示はパックのラベルに書いてあるとは限りません。私の働く売り場では、商品一つひとつではなく、売り場の数か所にPOP(お知らせの掲示)を出して知らせています。知らせ方はお店によって違うので、パックに書いていないからといって、処理をしていないお肉だとは決めないでください。
棚の前に立ったら、ブロックのラベルと一緒に、棚のまわりの掲示にも目を向けてみてください。「中心部まで十分に加熱」と書いてあったら、そのお肉は中を赤く仕上げる料理には使わないでおきましょう。どのお肉が対象なのか分からないときは、遠慮なく売り場のスタッフに声をかけてください。ローストビーフに使いたいと伝えてもらえれば、そのお肉が処理をしたものかどうか確かめられます。

表示を確かめたら、売り場の中の人からもうひとつ。ブロックは、なるべく長方形に近い形のものを選んでください。形がそろっていると火入れがうまくいきやすく、端だけ焼けすぎたり、真ん中だけ火が届かなかったりしにくくなります。ただし、形は火の通しやすさの話です。中まで火が通ったかどうかは、形がよくても中心の温度で確かめてください。部位ごとの向き不向きなど、ブロックの選び方はこちらで詳しく書いています。
→ ローストビーフのお肉、スーパーで何を買う? 選び方は「部位・形・重さ」の3つだけ
不安なときは焼き直してOK。食べる人のことも考えて
ここまで読んで、「もう切っちゃったけど、どうしよう」と思った方もいるかもしれません。不安なら、焼き直してかまいません。せっかく作ったのに、とためらう必要はありませんよ。
次のどれかに当てはまるときは、焼き直すことを考えてみてください。
- 中心の温度を測っていない
- 赤い汁や断面の赤さがどうしても気になる
- 食べる人に、小さな子どもや高齢の家族がいる
焼き直すときも、目安は同じく中心部を75℃で1分間以上です。温度計で真ん中を測りながら、その目安に届くまで火を通しましょう。
食べる人を選ぶことも、立派な判断です。厚生労働省や農林水産省、食品安全委員会は、小さな子ども・高齢の方・妊娠中の方・体調のよくない方に、中まで火が通っていないお肉を食べさせないよう呼びかけています。こうした方は、食中毒になったときに重くなりやすいからです。
家族で同じローストビーフを囲むときも、子どもやおじいちゃん、おばあちゃんの分だけ、中まで火を通したものを取り分ける。食べる人に合わせて火の通し方を変えるのも、作る人にできる気づかいです。
まとめ
- 赤い汁は血ではなく、お肉の赤い色のもと(ミオグロビン)が溶け出した水分
- 赤いから危ない、赤いから平気、のどちらも色では決められない。確かめるのは中心の温度(75℃で1分間以上が目安)
- 「中心部まで十分に加熱」と表示のある処理済みのお肉は、中を赤く仕上げない。表示はパックではなく売り場の掲示(POP)のこともある
- 不安なときや、子ども・高齢の方・妊娠中の方が食べるときは、中まで火を通す
赤い汁の正体がわかれば、切った瞬間にあわてなくてすみます。そのぶん、温度と表示という確かめどころに目を向けられます。
次にローストビーフを作るときは、売り場でブロックを手に取ったら、ラベルと棚まわりの掲示を読んでみてください。そして焼き上がったら、色ではなく中心の温度で確かめてみましょう。


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